傷口

映画やドラマの中にある、人が一方的にボコボコに殴られ蹴られのシーンが嫌いだ。

人の手や足によって、人の身体が腫れ上がって血が出て変形していく様を見ているのがとてもじゃないけど耐えられない。
画面越しに見るそれは殴ったふりだし特殊メイクによる演出だということをいくら頭の中で理解していても、鈍い音をたてて殴られながら徐々に腫れ上がり口や鼻から血を流す顔を見ているのがつらい。
映画『ヒミズ』の中で夜野が何度も殴られるシーンがあったけど、あれは見ていて嫌だった。
あと『軽蔑』の中でも人が殴られ蹴られのシーンがあったけどあれも生々しくてつらかったな。それから『軽蔑』の中では終盤に主人公のカズが借金取りの事務所に一人で乗り込むシーンがあるんだけど、やっぱり一人対多数で敵うはずもなくて、最後銃で撃たれたのか包丁刺されたのか忘れちゃったけどとりあえずその傷口に指突っ込まれて掻き回されるシーンがあって、さすがに画面から目を背けたくなった。
人の痛がる姿を見るのはこちら側もだいぶダメージを受ける。

人の手は握ればそれは人を殺す武器にもなる。もちろん足もだ。自らの身体の一部を使って、他者の身体を変容させる。
他の物体を介さないで人間の手によって人が弱っていく、それを見ていて不気味さや変な生々しさを感じる。
ひとりひとりの身体に武器が息をひそめながらも付属されている。
普段は本人も気づかないところに隠れているのに、いざ感情が爆発してしまえばそれはもはや別の意志をもった自分の身体から隔離された一個体として突如現れる。
自分の手のひらをグーにしながら、握れば拳、開けば掌(たなごころ)という言葉を思い出した。